ノート、その11

2006年6月10日「護憲?改憲?〜今、長崎で考える」報告
「護憲?改憲?〜今、長崎で考える」報告書
 
長崎新聞社より「大村市九条の会」あてに聴講券が届き今回のシンポジウムに参加致しました。私にとりまして予想以上の学習を深める場となると共に、私ども「大村市九条の会」が掲げています趣旨が揺るぎないものと改めて確信を得ることができたシンポジウムでした。

 以下の報告書はシンポジウムに参加された各氏の発言内容を100%お伝え出来ていない点がありますので、念のため6月18日の長崎新聞も併せてお読みいただければ幸いです。今回の学習を生かして「大村市九条の会」の掲げた目的完遂のために一層の微力を尽くして行きたいと思っておりますので、今後とも「大村市九条の会」へのご理解とご協力、ご賛同を宜しくお願い致します。

 尚、シンポは最初は舛添・内山両氏が意見を述べ、その後、土山・相良両氏が参加してお互いが意見の交換(質問・反論を含む)という形でシンポジウムは進められました。3時間に及ぶシンポジウムの重要な発言や意見、相違点を谷川なりの理解でまとめたもので、使用用語の全てがご本人の言葉通りでないことをお断り致します。

日時:2006年6月10日(土) 午後3時〜午後6時
場所:長崎新聞文化ホール 2階大ホール
主催:長崎新聞社  NBC長崎放送
(パネリスト)
舛添 要一氏 :自民党参議院議員(党新憲法起草委員会事務局次長)
山内 敏弘氏 :龍谷大学教授(法学館憲法研究所客員研究員)
土山 秀夫氏 :元長崎大学学長(県九条の会共同代表)
相良 勝美氏 :弁護士(県弁護士会憲法委員会委員)
(コーディネーター)
中村 登志哉氏 :県立長崎シーボルト大学教授

1、舛添要一氏の主張
1)憲法と現実との整合性がない。(解釈での対応には限界がある)
  例1:79条で司法の独立性を保つために裁判官の給与の減額を認めていないが、解釈で変えている。
  例2:89条で私学への補助は出来ないが実際は行われている。

2)九条の「自ら戦争はしない」の精神は変えないが、この憲法は「金科玉条」ではない。例えば人権については環境権、知的財産権などの新しい権利を規定したが良い。又、昔の軍隊の階級で大佐・中佐・少佐だったものを一佐・二佐三佐と呼び名を変えただけで平和になるのか。

3)終戦ではなく敗戦であり、転進ではなく敗退が正しい表現であると思う。

4)我が国に米国の基地があるのは不思議に思うし、正常ではないと思う。

5)核の廃絶を訴えているが、中国・北朝鮮・ロシア・インドなどが保有しており、その脅威に対抗するために日米安保条約を結んでいる。集団的自衛権が認められていないので、米国に対し基地の提供、予算面で補っている。

6)ゴラン高原、カンボジア、イランで世界の平和に貢献してきた。イラクでも同じであるが、イラクにおける自衛隊隊員は憲法9条の制約により非常に厳しい状況で任務についている。

*6月5日長崎新聞紙上で天皇について、「象徴のままでよく、元首に変更する必要はない。「天皇は天皇であり、普通の政治家が就任できるアメリカやフランスの大統領より、はるかに権威のある存在だ」とも述べている。

*その他の4氏の「シンポジウムに寄せて」との記事が6日以降順次掲載されておりますのでその発言についても是非ご参照下さい。

2、山内敏弘氏の主張
1)今こそ憲法を守るべき時だと考える。改憲の中心は九条にある。改憲したい人達は「自衛隊の現実をみよ」ということを根拠にするが、しかし、その先にあるのは集団的自衛権であり徴兵制が本音なのは明白である。

2)アメリカの日本にも血を流して欲しい、一緒に肩を並べて行動して欲しいとの要請に応えたいので憲法9条を変えることが何としても必要なのだ。

3)憲法99条に国会議員を含む公務員は護憲の義務があると明記されている。それにも拘わらず、その義務を果たさずして改憲が正当であるかのような主張が理解し難い。

4)自衛隊のイラク派兵の正当化は誤りであり、違法なのは明白である。日本にとってもアジア、世界にとっても憲法改定が正しい方策ではあり得ない。

5)有事法、国民保護法も国民にとって危険を孕むものである。今はその方針を拒否しても罰則が適用出来ないのは9条があるからであり、改定されれば軍事的秩序、軍事的利益のために国民は被害を受けることになる。土地収用法で守られている現在の道路の使用や私有地の軍優先の使用が可能となる。

6)司法においては82条において裁判は公開法廷で行うことが明記されているが、改定されれば非公開の軍事司法(軍法会議)の制約を受ける可能性が生じる。

7)憲法の考え方が時代を逆行させる内容である。愛国心を説くが、他の国において愛国心を強要する国はない

8)憲法は国民を制約するものではなく、むしろ権力にブレーキをかけるものである。又、法律が憲法に優先することはあり得ない

9)国家の為に国民があるのではない。国民の為に国家は機能しなければならない

10)憲法9条はアジアへの不戦の誓いであり、この条項をアジアの人達は肯定している

*全てを網羅しているものではありませんが以上が、ほぼ両氏の主張骨子です。


パネルディスカッションは両氏の論点を集約して
・相良勝美氏の発言内容
1)憲法九条と自衛隊の存在との間に現実的開きがあるのは事実であるが、それは政府がそうした乖離を作ってきた。又、「憲法」が実質的には「法」の下位になるよう変えたがっている。

2)憲法13条に「個人の尊重・・・公共の福祉に反しない限り・・・」とある。個人と個人のぶつかり合いが生じたとき公共の福祉、法の秩序が優先する。

3)憲法98・99条が抜け落ちると、最早憲法では無くなることについては自民党も認めていることであるが、国会議員には憲法の試験を受けて貰わねばなるまい。

・土山秀夫氏の発言
「長崎県人の核廃絶、平和希求は被爆地だけに格別の想いがある」と前置きされ
1)政府は自衛隊を軍隊と位置付けたいのだが、歴史上からも軍隊というものは自立的に肥大化し人員と予算、権限の拡大を求めていくのは明らかである。日本においてシビリアン・コントロールを望むのはその権限を首相は持っておらず無理である。

2)自衛の為の必要最小限ということでこれまでやってきたが、今や集団的自衛権に突き進んでいる。2000年10月、アミテージ報告書に「憲法9条が阻害要因」となっているとある。

98条に明記されている「国の最高法規たる憲法」を日米安保条約の下に跪かせようとしている。米国では自国の憲法を最高の法規と容認しておきながら、他国の憲法に対し言及してくることは、米国が日本を従属的に見ている証拠である。

3)現状との乖離が凄いので改憲したいと言うが、日本は一度も他国に対し武力行使をしたこともないし、一人たりとも殺してはいないし、隊員の一人も死んではいない。

4)自民党は選挙の時に改憲論を焦点に打ち出しただろうか。安全保障や改憲は争点にならないとして、避けてきたのが事実だろう。それをすべて国民から負託されたというような言い方は納得いかない。


コーディネーター・中村氏が舛添、山内両氏に以下のような内容確認・質問する。
1、舛添要一氏に対して
1)乖離を作ってきたのは政府ではないかとの指摘について
2)憲法改定は集団的自衛権が目的ではないかとの指摘について

2、舛添要一氏の答弁
1)自分達は憲法を遵守している。憲法について議論を深めるのは良いことであり、政府と国民を分けて考えることはない。

2)改憲を望まないのであれば、選挙においてその意志を選挙で改憲を主張する人物を選ばない選択をすれば良いし、その権利は保障されている

3)「公共の福祉」の優先を言うのであれば、個人的に文句はない。

4)現憲法はアメリカが作成したものだ。

5)社会党が選挙で勝っていたら日米安保条約を破棄したであろうか。又、自衛隊をなくせたであろうか。

3、舛添要一氏の答弁についての山内敏弘氏の見解
1)どんな外交政策をとれば良いのか考える必要がある。現実の世界と憲法にギャップがあるのは事実であるが、憲法を現実に合わせて行くのか、憲法を世界に生かして行くのがベストなのかの判断が重要なのではないか。

2)核に対しイスラエル・インド・パキスタンにはその保有を認め、北朝鮮・イラン・イラクには認めないという2面外交を行っている。

3)世界の国々、特にアジア各国は日本の憲法9条保持を願っている。

4)他国への援助が何故自衛隊派遣でなければならないのか。日本の人道的支援は公平・中立・非軍事でなければならないとの規定があり、日本のそういう支援に対し積極的評価がなされている。これまで非軍事的行動が、むしろなされすぎなかったのではないか。


次にコーディネーターより県民意識調査の結果分析の質問が提示される。
・憲法を変えたが良いと思う人  60%
・変えたい人の内、9条は変えたくない人 44%

1)舛添要一氏
・北朝鮮の拉致事件、テポドンなどの影響があるのではないか。

2)山内敏弘氏
・改正した方が良いという人が過半数なのはムード的なものがあるのではないか。環境権などの文言は自民党草案にはない。

・日本において誰が戦争宣言するのかが書いてないのに、どうやってシビリアン・コントロールが出来るのか。規定がないのに軍の暴走を止められると思うのは幻想である。

3)土山秀夫氏
・憲法を一纏めにして変えたいかどうかの設問自体に問題があるのでは。北海道の世論調査では憲法をよく知っている人の77%が改正すべきではないと答え、憲法をよく知らないと答えた人の74%が改正すべきと答えていることは何を物語っているのか。

4)相良勝美氏
・アンケート結果に証明能力があるのか疑問。4月7日、NHKが20才以上の男女にアンケートして62%の回収率で、43%が改正すべきと答え、19%が改正すべきでないと答えているが、この結果は何らかの判断の根拠にならない。

 何故ならば、仮に「民法を変えたがいいですか、どうですか」と問われて即座に答えられる人が何人いるでしょうか。(私も答えられない)こういう質問そのものがナンセンスではないか。憲法のどの条について変えたいか、変えるべきではないかと問うのがルールではないか。メディアはアンケートの取り方を再考すべきではないか


ここで会場からの質問に移る。( )は答弁
質問1:11条では基本的人権は与えられているとあり、97条では信託されたものであると記されている。その違いは。(後述)

質問2:小泉首相の靖国参拝は日本を孤児にするのではと思うが舛添先生はどうお考えか。(武器禁輸3原則を守っているし、マラッカ海峡には海賊が横行しているが、日本はその駆逐に貢献している)

質問3:舛添先生は先ほど他国の軍隊が日本に駐留するのは不思議だと言われたが、自国は自国を守るのが当然とのお考えか。(日米安保がいつまでも続くとは限らない)

質問4:12条で国民に対し権利より義務をと言っている。99条の公務員は憲法を守る義務があることのを知っているのか。行政・政治・弁護士の皆さんは情報を担保してくれておられるのか。

山内敏弘氏の総括答弁
 自民党草案の責任者の一人である舛添さんの「命をかけても法を守る」との発言はなんら意味を持たない。法より憲法が上位なのに自民党改革案は9条を「法」に任すことになっている。(法治行政)

 11条の与えられるは保障されていると捉えるべきものであり、97条の信託は「国民一人一人に託したよ」というものと考えるべきである。いかに現憲法と自民党草案とではどちらが格調高いか。選挙の時は公約で憲法に触れずして、当選したら当たり前の顔をして憲法に触れてくる手法は如何なものか

相良勝美氏の総括答弁
・自民党の元総理、森喜朗氏の「神の国」発言。同じく元総理、中曽根康弘氏は「私は嘘をつかないと」公言しながら新たな税の導入に踏み切った。
・憲法25条があるのに3万人を超える自殺者がでるのは何故なのか。
・世論が変わってきて、現在国会議員も落選すれば唯の人になる。
・国民投票案は自民・民主の共同提案

 護憲のために日々奮闘されておられます全国の志を同じくする皆様方のご健康・ご多幸をお祈り致します。尚、この報告書を9月16日(土)予定の「大村市九条の会の集い」の資料として使用することに致します。

2006年7月9日  文責:「大村市九条の会」 谷川成昭

(掲載日:2006年7月12日)