2023年 新年のご挨拶


掲載日:2023年1月4日

大村市九条の会より新年のご挨拶

 「新年のご挨拶というと、だいたい「あけましておめでとうございます」ということになりますが、昨年末に、専守防衛をかなぐり捨てる安全保障関係3文書の改定や、軍事費2倍化を具体化する来年度政府予算案の公表があった後では、とても「おめでとうございます」とは言えない気分だという人も多いのではないでしょうか。

 昨年最後の「徹子の部屋」で、「来年はどんな年になりそう?」と問われたタモリが「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えたことも話題になりました。「戦争する国づくり」にストップをかけ、「新しい戦前」にしないとりくみの正念場が来ていると覚悟を新たにしなければならないと思います。

 岸田政権が軍事力の大増強を強気ですすめている背景として、ロシアによるウクライナ侵攻等の影響で、軍事力の増強を支持する世論が多いことがマスコミなどで指摘されています。このことに関わって、政治学者の中島岳志さんが1月3日のラジオ番組で語っていた「輿論」と「世論」の違いの話が興味深かったのでご紹介します。中島さんは、昨年のサッカーのワールドカップ期間中に、日本代表チームの勝敗によって森保監督に対する評価が大きく変化する「手のひら返し」が起こったことを入り口にして、2006年の小泉首相による靖国神社参拝前後の世論の変化について語りました。

 参拝前は「参拝すべきではない」という意見が「すべきだ」の2倍くらいあったのに、参拝した小泉首相が「どんなことにも反体勢力がいる」として、反対勢力に屈せず、自民党総裁選挙で掲げた公約を実行したという記者会見をした後の世論調査では、参拝を評価する意見が評価しない意見を上回るという事態になりました。こうした世論の変化について、中島さんは「輿論(よろん)」と「世論(せろん)」の違いという視点で解説したのです。

 「輿」の文字が常用漢字から外れたために、どちらも「世論」と表記されるようになって区別がされなくなってきていますが、元々は「輿論」は英語で言う「パブリック・オピニオン」で、正確な知識・情報をもとにして、議論と吟味を経て練り上げられるべきものとされていました。それに対して、「世論」は「ポピュラー・センチメント」にあたるもので、多分に情緒的なもの、「大衆の気分」という意味合い(「空気」と説明している識者もいます)で使われていたということです。「輿論」と違って「世論」は様々なきっかけでコロコロ変わるものであり、ファシズムの背景となる場合もあると中島さんは指摘しています。

 今、軍備増強を支持しているとされる「世論」は「気分」や「空気」のようなものではないでしょうか。正確な知識や情報をもとにした議論で「輿論」を練り上げることが必要です。ウクライナ情勢等を受けて安全保障に対する不安を感じている人が多いことをきちんと受け止めながら、「日本が攻撃されたらどうするんだ」という漠然とした危機感で短絡的に「軍備増強」を支持することの危険性を訴えていかなければなりません。

 昨年のロシアにいるウクライナ侵攻は、何の前触れもなく突然起こったわけではありません。ウクライナ東部ではロシア語を母語とする住民の権利保障等をめぐって武力紛争が続いていました。ロシアはウクライナ東部の「独立派」の要請を受ける形で軍事侵攻を開始しました。ひるがえって、現在の日本で他国から侵攻を受けるような紛争があるのか、紛争があるとして、それを解決するための外交努力は行われているのか、相手の国を攻撃できるような兵器を保有することや軍事費を2倍にすることが本当に平和と安全を守ることになるのか等々、正確な知識や情報を元にして議論しなければならないことがいくつもあります。

 大村市九条の会は、憲法を守りいかすとりくみをすすめている全国各地の皆さんとともに、軍備増強ではなく憲法九条をいかした平和外交を求める「輿論」を作り上げるために、今年も力を尽くします。

2023年1月4日 大村市九条の会事務局(文責:馬場)